●上富田町の民具となりわい 

      トップ> 上富田町文化財教室シリーズ


 2.『農具繪図面 和歌山県西牟婁郡』

 富田川中流域の農具には、地域的に特色ある民具がいくつか見られる。それは、明治時代前期の『農具繪図面 和歌山県西牟婁郡』においても認識されていたようで、特徴ある持ち手部分の曲がった形態の犂・ノベ(畦畔に泥を塗るために鍬形をした木製農具)・形態に地域差のみられる首木・麦用竹製千歯扱き・イタミなどをはじめ、明治前期の西牟婁地域の農具が数多く掲載されている。

 この資料は、いわゆる「農具絵図」と呼ばれる諸資料のなかのひとつである。「農具絵図」は、明治前期に全国で作成された農具のイラスト集で、全国に一九件確認されているものである。和歌山県で作成されたもののひとつである『農具繪図面 和歌山県西牟婁郡』は、明治一四〜二一年頃に作成されたものとされている。(註3)本稿では、平成二年に和歌山県立紀伊風土記の丘が玉置善春氏より提供された、神奈川大学日本常民文化研究所所蔵版の複写を参照した。

 この『農具絵図面 和歌山県西牟婁郡』に掲載されている民具は、以下の通りである。
    

馬鍬 薙刀刃砕土器 風呂鍬 唐鍬五種 熊手
籾探し 又鍬二種 鶴嘴二種 鋤簾 塊割り
水桶 水車 撥ね釣瓶 踏車
荷車 施肥用竹籠二種 天秤棒 肥桶 シュロ縄 藁畚二種
蔓畚 竹籠 縄畚 鞍一式 首木 尻木
縄各種 柄杓 灰用桶 肥柄杓 稲用千歯扱き
麦用千歯扱き 篩四種 唐棹 唐箕 土摺臼 漏斗
板箕 稲木 一斗桶
脱穀用搗臼 脱穀用横杵 千石通し 揺り板 籾箱 藁製籾入れ
藁用押切 横挽鋸 芝橇(用途不明) ハツリ斧
鳴子 案山子 油筒 草削    


ここに掲載されている民具のほとんどが、郷土資料館に保管されている民具と照合できるが、こうした絵画資料との比較研究の素材として、ここに挙げられている民具は今後も収集を進めていく必要があろう。

 註3 木下忠著 「明治の農具絵図について」四国民家博物館研究所編 『愛媛県農具図譜』復刻版 1983