●上富田町の地名  −無形文化財としての地名

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 はじめに

 上富田町には地名に関心を持っている人が多いし、研究者も多い。近年では上富田中学で長く教鞭をとられ、和歌山県をフィールドに研究する人や紀南の郷土研究者たちのよりどころになっている杉中浩一郎先生や南方熊楠研究第一人者の中瀬喜陽先生、同町元教育長の故谷本圭司氏、同町町史編纂委員長をされた故樫山茂樹先生、郷土史家の故玉置善春氏、町史編纂の事務に従事されていた津軽誠道氏のたゆまぬ研究と発表があり、また同町出身の故真砂光男氏は、長年の調査研究論文をさまざまな雑誌、研究誌に精力的に発表されていた。氏の没後、紀南文化財研究会から紀南郷土叢書第十三輯『熊野地名考』として研究の一部を一冊にまとめられている。氏のその本は、厳しい学究姿勢を貫かれ、実証的研究に没頭された素晴らしい研究成果を、説得ある文章で綴られている良書である。

 今田辺を中心に「紀南・地名と風土研究会」という会がある。会では、会報を出して相互の地名研究成果を発表しあっているが、この研究会の発足に尽力し、同会の代表を亡くなるまで勤められたのが同町の故玉置善春氏で、氏の跡を継いだのが同町出身の中瀬喜陽氏である。中瀬氏も先人の意向を継承発展させようと、日々努力を重ねられ、先年同会は発足二十周年を迎え、記念事業を行う事が出来た。このように上富田町には地名研究に精通している人が多く、ここに述べた人以外でも、地名に関心を示している人の枚挙に暇がない。

 平成九年(1997)刊行の『上富田町史』資料編下二には、第四章地名としてまとめられており、その付図も労作である。とくに通称地名表示図は、生活の急激な変化によって失われやすい地名を聞き取り記録した貴重なものであり、今後さらに文化的価値が上がってくるものと考えられる。近隣市町村史で地名を大きく取り上げているのは、『田辺市史』と『上富田町史』だけである。

 本稿では真砂光男氏の『上富田町文化財』に投稿した各論文や『上富田町史』資料編下二等を参考に、上富田の地名の特徴を探ってみたい。

龍松城より富田川下流を望む

龍松城より富田川下流を望む