●富田川の魚  

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はじめに

 和歌山県南部に位置する富田川(図1)は約50kmの北東から南西に向けて流れる中型の河川である。この富田川の特徴は年平均気温が14.3℃(栗栖川★)で年雨量3,050mm★の源流域を持ち、その一帯には樹高20mになる自然林や成長して安定した植林が広がっている。流域面積276㎢中に人口約20、613人[1993年現在]の人々が山を主とする地場産業で生活している。そのため水質、水量とも良好な河川である。

図1 富田川調査地

 富田川には30数種の魚が生息している。そのうち半数は一生を淡水域で生活する淡水魚であり、後の半数は海と川を往復する両側回遊魚である。富田川が古くからの自然のたたずまいであれば淡水魚と両側回遊魚とはバランス良く本流と支流の全域に渡って豊富に生息できていたはずである。ところが近年の人工構造物であるコンクリートよう壁と川の流れをさえぎるえん堤によって川魚の生活は大きくゆがめられている。各魚種の生物量が縮められている。調査後15年経った現在でもこれらほとんどの人工構造物は以前のまま存続している。(但し、支流M内ノ井川、本流A十九渕下手のえん堤2007年改修済・文化庁認可)。今もこれらえん堤やコンクリートよう壁からの影響は川魚に絶え間なく続いている。今回はこのような人工構造物によりゆがめられた川魚の現状を報告する。

 富田川の魚をまとめるに当たって、熊高紀要bP8号、熊野第20号から抜粋した。一部に主として1993年の本流における「遡上魚に与えるえん堤の影響」の中で両側回遊魚の遡上状況と淡水魚の生息状況をみていき、二部に1994年に調べた8箇所の支流と本流の「流域の産業活動と川魚の関わり」を「富田川の支流と本流の魚」と改名して各支流の魚の生息状況と魚に与えるえん堤の影響をみた。

 この報告は富田川全域の魚を調べているので、今後富田川を見つめ直す時に有益資料になると考える。