●富田川の魚  

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二部「富田川支流と本流の魚」

 調査時期は1994年8月である。調査場所は図1で示す各支流のJからQの8箇所と本流R1箇所(市ノ瀬)である。各箇所において平瀬、早瀬、渕を含む100m区間を選ぶ。調査方法は観察者が流れに体を沈めて魚の種類、大きさと個体数を読み取り、水中メモ用紙に記入する。必要に合わせて魚種確認のために捕獲をする。

中川 調査地点Jは本流から1.4km川上にあり、本流からここの調査地点までには高さ5mの魚道付きえん堤(図2)が1つある。調査地点Jは比較的川幅が広く、早瀬や平瀬の中にできている軽石の後やよどみなどが多いことにより早瀬のような流速の早い流域面積と川幅の広い東向きの谷川である。魚種組成(表1)をみていく。ボウズハゼが早瀬に18個体見られる。このうち4個体は産卵前の成魚であり、他の14個体が全長5cmの今年の遡上個体である。オオヨシノボリが早瀬に8個体見られる。このオオヨシノボリのうち5個体が成魚であり、他の3個体が全長5cmの若魚である。ルリヨシノボリが早瀬に15個体見られる。このルリヨシノボリのうち11個体が成魚であり、他の4個体が全長5cmの若魚である。同じ両側回遊性のシマヨシノボリとヌマチチブ、スミウキゴリは1個体も見当たらない。これに対して両側回遊をしないカワヨシノボリは若魚、成魚を含め45個体見られる。渕にウグイ、カワムツB型が群れていて、早瀬にはアマゴの若魚5個体、渕と平瀬にはアユが70個体ほど群れていたり、単独であったりする。

鍛冶屋川 調査地点Kは本流から2.5km川上にあり、本流からここの調査地点までの間には高さ4mの魚道付きえん堤(図2)が1つある。調査地点Kは川幅が狭く水深の浅い(30cm深)東向きの谷川であり日当たりの良い場所である。魚種組成(表1)をみていく。両側回遊性ボウズハゼが早瀬に7個体見られる。この7個体のうち1個体が産卵前の成魚で、他の6個体が全長5cmの今年の遡上個体である。両側回遊性のオオヨシノボリが早瀬に9個体見られる。このオオヨシノボリ9個体のうち5個体が成魚であり、他の4個体が若魚である。ルリヨシノボリが早瀬に7個体見られる。両側回遊性のルリヨシノボリ7個体のうち、5個体が成魚であり、2個体が全長5cmの若魚である。同じ両側回遊性のシマヨシノボリとヌマチチブは、1個体も見当たらない。これに対して、両側回遊をしないカワヨシノボリは55個体見られる。他に早瀬には全長10cmから15cmのアマゴ若魚が10個体見られ、早瀬と渕にアユが50個体、渕にカワムツB型21個体、ウグイ10個体見られる。

石船川 調査地点Lは本流から0.8km川上にあり、本流からここの調査地点までの間にはえん堤がない。調査地点Lは川幅が狭く西向きの谷川であるが、比較的水量が多く、安定した流れとなり、平瀬が深く、早瀬も深い流れになっている。魚種組成(表1)をみていく。ボウズハゼが早瀬に3個体見られる。このボウズハゼの3個体は、全長5cmの今年の遡上個体である。オオヨシノボリが早瀬に6個体みられ、このうち4個体が成魚であり、他の2個体が若魚である。ルリヨシノボリが27個体見られ、このうち19個体が成魚であり、他の8個体は若魚である。両側回遊性のハゼ類の中でこのルリヨシノボリが特に多い。両側回遊性であるスミウキゴリの成魚が2個体見られる。両側回遊性のシマヨシノボリとヌマチチブは1個体も見当たらない。これに対して、両側回遊をしないカワヨシノボリは50個体見られる。他にウグイ8個体、カワムツB型19個体が見られ、平瀬と渕に群をなしたアユが10個体遊泳している。アマゴの若魚も多数遊泳している。

愛賀合川 調査地点Mは本流から1.3km川上にあり、本流からここの調査地点までえん堤がない。調査地点Mは川幅の狭い西向きの谷川である。調査地点Mの魚種組成(表1)を見ていく。ボウズハゼが早瀬に3個体見られる。この3個体は全長5cmの今年の遡上個体である。オオヨシノボリは早瀬に21個体見られ、このうち8個体が成魚であり他の13個体は全長5cmの若魚である。ルリヨシノボリは早瀬に17個体見られ、このうち12個体が成魚であり、他の5個体は全長5cmの若魚である。同じ両側回遊性であるシマヨシノボリとヌマチチブが見当たらない。流れのよどみや草むらの水辺にはウグイの若魚が5個体、カワムツB型の若魚がところどころに見かけられ、早瀬にアマゴ若魚が岩陰に単独で潜んでいる。渕にアユが20個体遊泳している。流れのよどみや平瀬の砂地に両側回遊しないカワヨシノボリが若魚、成魚を含めて34個体見られる。

根皆田川 調査地点は本流からここの調査地点までの間にはえん堤がない。根皆田川の調べでは、調査範囲を広くとる。調査地は本流との合流点から0.6km上手の地点から4.1km先の最上流域とする。本流から0.6km地点Nから川上に向けてコンクリートが敷きつめられている。このコンクリートのよう壁と川底の手前が調査地点Nである。ここは砂地で川縁にはヨシが茂っている。この地点の魚種組成(表1)をみていく。全長12cm前後のカワムツB型が2個体、全長13cm前後のオイカワの3個体、全長7cmのギンブナの3個体が水深10cmの浅い流れに遊泳していたり、ヨシの根元に潜んでいたりする。よどみの砂地には全長14cmのシマドジョウが静止している。本流から0.9km地点から2.3km上手の間の1.4km間には川床にコンクリートリート川床があり、この1.4km間では魚、カニ、エビが1個体も見当たらない。このコンクリート川床がなくなった地点から最上流域まで1.8kmあり、この1.8km区間の川底は砂地、泥地であって、この区間での魚は全長3cmのフナの幼魚が1個体見つかったのみであり、他の魚がなく動物としてヌマエビとアメンボウガ生息している。本流から0.6km地点の調査地点Nより4.1km川上の最上流域までの根皆田川にはハゼ科魚類がみられない。

岡川 調査地点Oは本流から1.5km川上にあり、本流からここの調査地点までの間にはえん堤がない。調査地点Oは比較的広い水田地帯の広がった平地の始まりに当たる。川床が砂地の平瀬であり、水辺の草木が繁茂する。調査地Oの魚種組成(表1)をみていく。この中に生息する魚は4種である。全長10cm前後のオイカワがところどころで群遊していて、56個体見られる。水辺の草木の茂みには全長8cmから11cmのギンブナが21個体見られる。全長4cm前後のメダカが33個体、全長5cmから6cmのモツゴが18個体、遊泳する。ここの調査地100m区間には四季を通じてゆるやかな水流を好む魚類で占められていて、ハゼ科魚類やアマゴ、カワムツ、シマドジョウ、アユが見当たらない。両側回遊性の魚が生息していない。

生馬川 調査地点Pは本流から3.1km川上にあり、本流からここの調査地点までの間にはえん堤がない。しかし、毎年本流から調査地点までの間で水涸れの起こる時期がある。調査地点Pの魚種組成(表1)をみていく。早瀬には両側回遊性のオオヨシノボリが5個体見られ、この5個体とも成魚である。両側回遊をしないカワヨシノボリは全長3cmから5cmの若魚、成魚を合わせて55個体見られる。これらのカワヨシノボリは流れのよどみの砂地や川辺りの軽石にのっている。早瀬にアマゴ若魚が1個体見られ、流れのよどみや大きな軽石の陰に全長10cmから15cmのウグイが6個体見られたり、川辺りに全長10cmほどのカワムツB型が5個体見られる。平瀬の砂地に全長9cmのシマドジョウが見られる。両側回遊性のハゼ科魚類のボウズハゼ、ルリヨシノボリ、シマヨシノボリ、ヌマチチブ、スミウキゴリが見当たらない。また砂地、泥地を好むギンブナ、モッゴ、ナマズ、ヌマチチブがいない。

庄川 調査地点Qは本流から3.1km川上にあり、本流からここの調査地点までの間にはえん堤はない。しかし、毎年本流から調査地点までの間で水涸れの起こる時期がある。調査地点Qの魚種組成(表1)をみていく。いたるところの平瀬、よどみ、渕には全長2.3cmから全長5.3cmのカワヨシノボリが123個体見られる。この123個体はカワヨシノボリの若魚、成魚である。とことどころのよどみや渕には全長5cmから11cmのカワムツB型12個体見られる。平瀬に全長10cmから16cmのオイカワが5個体遊泳している。これら3種以外の魚が見当たらない。6月4日の調査でもカワヨシノボリを237個体採集して確認する。

4支流における魚に与えるえん堤の影響

 調査地点のJ中川、K鍛冶屋川、L石船川、M愛賀合川において調査地点より川上側にあるえん堤の上の魚種組成(表2)を取り上げる。これらの4箇所のうち3箇所で遡上性の強い魚種がえん堤下に比べ激減している。遡上性の強いボウズハゼ、オオヨシノボリ、ルリヨシノボリ、シマヨシノボリがほとんど見当らない。それに対して、淡水魚であるカワヨシノボリ、タカハヤ、カワムツB型、ウグイが多数見られる。

本流(市ノ瀬) 調査地点Rは本流の中流域の中程に当る。魚種組成(表1)をみていく。ボウズハゼが10個体見られ、10個体とも成魚である。ルリヨシノボリの成魚が2個体。シマヨシノボリは平瀬に20個体見られほとんどが成魚である。川縁にカワヨシノボリの若魚、成魚が50個体。ヨシの根元にカワムツB型20個体。オイカワ10個体。ヨシの茂みにウグイ10個体がところどころにみかける。川縁近くの砂地にシマドジョウが2個体。渕に流れ込む手前の早瀬にはアユが50個体遊泳する。渕にヌマチチブが20個体みられる。