●上富田町の年中行事  

      トップ> 上富田町文化財教室シリーズ


 はじめに

 年中行事は、年々同じ時期や特定の日に繰り返される行事である。それには、地域の住民が協力しておこなうものと、個々の家々でおこなうものとがある。

 地域で人々がまとまっておこなうものには、祭りや講のようなもののほか、左義長や虫送りのように子供が主体になっているものもあった。家々でおこなう行事は、どの家でもだいたい共通したやり方をしていた。とくに正月と盆、それから五節句などとよばれる日を祝うものや、上富田のような農村では、稲作を中心にした農作に関して、豊作を願う行事が多かった。

 こうした年中行事は、古くからのしきたりを守ってきたものが多いが、近代になって旧暦が新暦に改められたり、人々の考え方や生活、生産様式なども変わってきたりして、昔通りにはおこなわれなくなった。とくに昭和の戦争を境に古い慣習は崩れだし、昭和三十年代の高度成長期になって、人々の移動も多く、生活様式も一変し、以前のような行事は自然になくなったり、とりやめられたりするようになった。いまもおこなわれているのはごく一部である。いまでは、古老に聞かないとわからないものや、以前記録されたものによらないと、知り得ない行事も多くなっている。

 上富田の年中行事については、『上富田町史』資料編下、民俗編の「年中行事」の章で、順を追うて年間の行事が挙げられているので、いつどんな行事があり、どのような内容であったかを知ることができる。しかし、それも各地区について詳しく調査が行われたわけではないようで、編さんにかかわった人たちの知っていることや、郷土誌などですでに記録されたことによって、まとめ上げられたようである。

 今では、町史の年中行事以上のことはほとんどわからないし、ここでそれをなぞったところであまり意味がないので、多少とも特色のあるような行事を取りあげて、それが全国的にみた場合はどうか、紀南の他の地域と比較した場合はどうなるか、といったようなことをいくらか加えて記述してみることにする。