●上富田町の年中行事  

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 福木正月

 十二月十三日は正月の準備を始める日で、この日を福木正月という。福木とは正月に用いる木のことで、この日山で伐って運んでくるのを福木迎えなどともいう。

 福木正月
 福木正月

 福木正月というのは、富田川流域や旧田辺市の周辺を中心に用いられることばで、旧大塔村や日置川付近に及んでいる。他の地域では一般に「正月始め」とか「事始め」とか言い、この日にすす払いをし、神棚や荒神棚などをきれいにしたものである。この地方では山から福木を迎えることを特に大事な儀礼にしていたので、この日を福木正月というのである。

 福木と言っても、これには福柴も含まれていて、福木と福柴の両方を山から採ってくることになっていた。福柴は正月にかまどで焚くウバメガシの柴であり、福木はカシかウバメガシの少し太い木で、これを適当な長さに切って四本にし、ヨツギボタとも言って大晦日の晩からいろりで燃やした。いろりが使われなくなって、かまどで焚くようになり、また、福柴だけを採ってくる家もあった。

 十三日に福木と福柴を山から運んでくると、それを庭先や門口に立てて、神酒やご飯などを供えた。生馬では里芋と大根を輪切りにしたものをボーリといって供物にした。ボーリということばは、熊野地方で正月に用いるものとして、特別の意味をもつものである。鮎川方面でも福木正月は十二月十三日であるが、その二、三日前に山から福木を一荷伐ってきて、軒下へ置き、十三日に里芋、大根と神酒を供え、当日神棚へは神酒とみかん、串柿を供えるという。

 福木正月から元旦までに家々で用意することとして、福木迎えのほかに大掃除、しめ縄づくり、門松立て、餅つきなどがある。餅つきは十二月の二十七日、八日ごろであるが、その際、福柴を燃やして餅米を蒸す家もあった。

 一般にむかしは福木のヨツギボタは、大晦日にいろりの四隅から燃やして灰をかぶせておき、元旦の朝は世継ぎとしてその火を福柴に移して、それで湯をわかし雑煮を炊いた。ウバメガシはパチパチ音を立てて燃えるので、景気がよいとされた。